小惑星りゅうぐうに着陸する探査機はやぶさ2のイメージ
(JAXA・池下章裕氏提供)
~~
生物は親なしに無生物から偶然発生することがある。古代ギリシャのアリストテレスが唱えた「自然発生説」は、19世紀の半ばにフランスの化学者、パスツールの実験により否定された。
では、約46億年前に誕生した地球に何が生命をもたらしたのか。その後さまざまな説が生まれた。実は生命の基となる物質の起源は、地球ではなく宇宙にあるとするのが「パンスペルミア仮説」である。パンは「汎(すべて)」「スペルミア」は種子を意味する。
生命の「種」が、光の圧力を受けて惑星間を移動している。約100年前、ノーベル賞受賞者でもあるスウェーデンの科学者、アレニウスが提唱した。その仮説を検証するため日本の研究チームは、高度約400キロを回る国際宇宙ステーション(ISS)で採取したちりを分析してきた。生命の種は、たんぽぽの綿毛のように宇宙空間を漂うと考えられることから、「たんぽぽ計画」と名付けられている。
一方で、生命の種は小惑星や彗星(すいせい)の破片の落下により地球に運ばれた、との説も有力である。確かに地上で見つかった隕石(いんせき)からはタンパク質の材料となるアミノ酸がすでに検出されている。ただ地球上で混入した可能性も否定できない。そこで注目されたのが小惑星「リュウグウ」の砂である。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が、52億キロメートルに及ぶ長旅の末1年半前に地球に持ち帰った。約5・4グラムの砂は、世界各国の研究機関に配られ、外気に触れない状態で解析が進められてきた。果たして20種類以上のアミノ酸が確認された。
やはり期待通りの「玉手箱」であった。生物学最大の謎にどこまで迫れるのか。これから発表される論文が楽しみである。
◇
2022年6月7日付産経新聞【産経抄】を転載しています